吉田修一さんの小説『国宝』は、3年間にわたり歌舞伎の黒衣(くろご)として舞台裏に入り込み、丹念に取材を重ねて書き上げられた渾身の作品です。
黒衣とは歌舞伎の舞台で役者を支える黒装束の裏方で、観客には「見えない存在」として扱われます。
この記事では、吉田さんがどのように黒衣としての取材を行ったのか、その役割や意味、そして主演の吉沢亮さんが演じる映画化作品の魅力まで詳しく解説します。

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吉田修一が3年間黒衣(くろご)として取材したのはなぜ?
吉田修一さんが『国宝』の原作を書くにあたり、なぜ3年間も黒衣として歌舞伎の世界に身を置いたのか、その背景と取材の意義について説明します。
黒衣の役割を理解し、歌舞伎の舞台裏を知ることが、作品のリアリティを支える重要な要素となっています。
黒衣とは?
黒衣は、歌舞伎の舞台で役者の演技を支える裏方の役割を担います。
黒い衣装に身を包み、顔も隠すことで「見えない存在」として扱われ、舞台上で小道具を渡したり、不要なものを片付けたりします。
歌舞伎の「黒は見えない」という約束事に基づき、観客は黒衣の存在を意識しないよう心掛けます。
この独特の文化は、歌舞伎の虚構の世界を成立させるための知恵であり、リアリズム演劇とは異なる独自の舞台美学を築いています。
黒衣は単なる裏方ではなく、演技の一部として重要な役割を果たしています。

黒子がいることをひっくるめて、歌舞伎の演技になるんですね
吉田修一が黒衣として3年間取材!
吉田修一さんは、歌舞伎の世界をリアルに描くため、2017年から3年間にわたり黒衣として楽屋に入り込み、舞台の裏側を体験しました。
黒衣の動きや役者との関係、舞台の緊張感を肌で感じることで、物語に深みと説得力を加えています。
この取材は単なる観察にとどまらず、黒衣の動作や舞台の空気感を身につける修行のようなものでした。
ANAの機内誌がとてもタイムリーだった‼️
— 茶茶 (@rosekiss1991511) September 10, 2018
吉田修一さんが黒子として鴈治郎さんに密着してた記事😃 pic.twitter.com/3wR7XMBJ1R
吉田さんは中村鴈治郎さんの指導を受け、黒衣としての振る舞いを学びながら、歌舞伎役者の人生や芸への情熱を間近で見つめました。
この経験が『国宝』のリアリティと厚みを生み出しています。
黒衣と歌舞伎の舞台裏
黒衣の具体的な仕事内容や、舞台裏での役割、そして黒衣が持つ文化的な意味についてさらに掘り下げます。
黒衣の存在を知ることで、歌舞伎の舞台がより一層魅力的に感じられるでしょう。
黒衣の舞台での役割
黒衣は、舞台上で役者に必要な小道具を渡したり、衣装の早替わりをサポートしたり、舞台の進行を円滑にするために様々な仕事を行います。
黒衣は役者の弟子や専門のスタッフが務め、舞台の一瞬一瞬を見逃さず動く高度な技術が求められます。
黒衣は「見えない存在」として動くため、身体を小さくし、客席の視線を避けながら行動します。
観客に気づかれないようにすることが黒衣の腕の見せどころであり、黒衣が目立たなかった日は「名演」と称されます。
色違いの衣装もあり、雪の場面では白装束、海の場面では青装束を着用することもあります。
『黒子』(黒衣)
— sumile684 (@sumile6842) December 4, 2020
歌舞伎や人形浄瑠璃で、舞台の演出や役者さんの補助をする、黒装束をまとった「裏方に徹する者」。
劇中では「そこには居ないことになっている」ていで、劇のお話が進められてゆく。
主な仕事は、衣装の早替りや化粧直し、小道具の受け渡しや処理、人形を操ったりすることもある。 pic.twitter.com/IqbrjijKEt
黒衣の歌舞伎での意味
歌舞伎はリアリズム演劇とは異なり、舞台上の虚構を観客が受け入れる文化です。
黒衣の「見えない」約束は、その虚構を成立させるための重要なルールです。
歌舞伎は「ウソの世界」を開き直り、演技や衣装、舞台装置を通じて観客に独特のリアリティを提供しています。
この文化的背景を理解することで、黒衣の動きや存在が単なる裏方以上の意味を持つことがわかります。
吉田修一さんもこの「約束事」を深く理解し、物語に反映させました。

虚構を受け入れるというのは、あまり他でみない面白い文化です
*映画「国宝」で吉沢亮さんが演じる主人公のモデルについてはこちらの記事をご覧ください。

映画『国宝』と吉沢亮
吉田修一の原作を基にした映画『国宝』は、主演の吉沢亮さんが歌舞伎の世界に挑んだ意欲作です。
映画制作の背景や吉沢さんの役作り、作品の見どころを紹介します。
映画をより楽しむためのポイントも解説します。
映画『国宝』のあらすじとキャスト
映画『国宝』は、任侠の家に生まれた立花喜久雄さん(吉沢亮さん)が、歌舞伎役者の家に引き取られ、芸の道に人生を捧げる50年を描いた一代記です。
ライバルの大垣俊介さんを横浜流星さんが演じ、二人の葛藤と成長が物語の核となっています。
監督は李相日さんで、吉田修一さんの原作を忠実に再現しつつ、歌舞伎の美と厳しさを映像で表現しています。
豪華キャスト陣が作品を彩り、2025年6月に公開予定です。
吉沢亮の役作り
吉沢亮さんは、役作りのために歌舞伎の基本動作から学びました。
すり足や正座、扇子の扱いなど、細かい所作を徹底的に稽古し、撮影直前まで歌舞伎の稽古に励みました。
踊りの経験がなかった吉沢さんにとって、歌舞伎の女方を演じることは大きな挑戦でしたが、役者人生の集大成と語っています。
また、吉田修一さんが黒衣として経験した舞台裏のリアルをもとに、吉沢さんも歌舞伎の世界観を深く理解し演技に活かしています。
映画は歌舞伎の美学と人間ドラマが融合した作品として高い評価が期待されています。

歌舞伎の裏側をどのように映画で表現するのか、注目です!
まとめ
吉田修一さんが3年間黒衣として歌舞伎の舞台裏に入り込み取材したことは、『国宝』のリアリティと深みを支える大きな要素です。
黒衣の役割や文化的な意味を理解することで、歌舞伎の世界の奥深さが見えてきます。
吉沢亮さん主演の映画『国宝』は、その経験を活かし、歌舞伎の美と厳しさを見事に映像化しています。
歌舞伎や伝統芸能に興味がある方はもちろん、文学や映画ファンにも必見の作品です。
ぜひ作品を通じて、黒衣の世界と歌舞伎の魅力を感じてみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!
*横浜流星さんの映画「国宝」での役についてはこちらの記事をご覧ください。
